ネットパトロール始動 医療機関ホームページの監視を強化
医療機関のホームページを規制する「医療機関ネットパトロール」が始動されました。悪質な美容医療サービスにおける「ウソ」や「大げさな表示」といった、不適切な表現による被害報告や通報をきっかけに進められてきたホームページの規制が、ついに本格化した格好です。医療法もついに、ホームページを広告規制の対象として取り締まる方向で改正されました。医療機関のホームページについて考えましょう。
ウェブサイトも広告規制の対象に
2017年8月、医療機関が運営するウェブサイト(以下、「医療機関ホームページ」とする)の監視体制強化を図る目的で、厚生労働省は、医療機関ネットパトロールを始動しました。
これにより、医療機関ホームページが個別にチェックされ、また違反の疑いのあるウェブサイトの情報が一般から受け付けられるようになっています。違反の対象となるのは、「医療広告ガイドライン」および「医療機関ホームページガイドライン」から逸脱したウェブサイトです。
医療機関の広告規制については、みなさんご存知のことでしょう。チラシやダイレクトメール、看板広告といったツールを利用した広告活動は、医療法において禁止事項が厳しく定められています。
医療行為という公共性に鑑みて、虚偽・誇大広告や誤解を招く表現で患者に不利益を与えないようにするための規制です。表示可能かどうかについて、細かな表現については、罰則のある医療法にくらべて拘束性は弱いものの、「医療広告ガイドライン」に示されています。
これまで、医療機関ホームページについては“広告”として取り扱わないとされ、この「広告規制の対象外」とされてきました。ところが、2017年6月に公布された医療法は、ホームページを“広告”とする方針で改正されています。この改正法が施行されると、その後の状況はわかりません。
今後は、医療機関ホームページについても「虚偽・誇大等の不適切な表示が禁止され、中止・是正命令や罰則を課す」ことができるようになると考えられます。
ただし、「患者が知りたい情報(自由診療等)が得られなくなるとの懸念等を踏まえ、広告等可能事項の限定を解除できる場合を設ける」とされており、これは広告規制を免れる事項を定めるということですから、省令など今後の動きに注目しましょう。
ガイドラインに沿っていれば大丈夫
医療機関ホームページに関しては、2012年に厚生労働省よりガイドラインが出されています。「医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページガイドライン)」です。
インターネット上の悪質な美容医療サービスの情報による消費者トラブルが相次いだことがきっかけで、さまざまな対策が検討された結果、このようなガイドラインがつくられました。これらのガイドラインに沿わない内容については、医療機関ネットパトロールの監視対象となります。
ところで、このような新制度が始まると、「ホームページをつくると罰せられるかもしれない。つくらないほうが身のためじゃないか」と考えてしまうかもしれませんね。しかし、本当にそうでしょうか。考えてみると、そもそも悪質業者摘発のために考え出された規制です。あなたが悪質業者でないのなら、ホームページをつくることに躊躇する必要などないと思いませんか?
誤解を招く表現を避け、医療機関として患者に資するために誠実につくられたウェブサイトであれば、ほとんど問題はないはずです。よしんば、規制に抵触していたとしても、いきなり罰せられるわけはなく、まずは勧告を受けることになります。
ウェブサイトなら、その時点でいくらでも修正することができますし、いったんサイトをクローズしてもよいでしょう。チラシやダイレクトメールのように、刷り上がった在庫が無駄になるという類いのものではないので、その点では安心できます。
これからはオリジナルサイトが必須
患者の側から考えてみましょう。スマートフォンが普及し、パソコンがなくても誰でもインターネットにアクセスし、そこから情報を得られる時代になりました。
特に若い世代は、新しい商品やサービスを知ると、その場ですぐにインターネットで検索して調べます。そうした世代の人にとって、調べたときに何も情報が出てこないというのは、がっかりさせるだけでは済みません。精神的な負荷をかけ、ストレスを与えてしまうのです。
さまざまな情報がインターネットで簡単に手に入るという便利さの一方、情報を手に入れるのに通常より手間や時間がかかると、それだけで商品やサービス自体の印象まで悪くしてしまいます。
また、それ以上は追求せず、他をあたってしまうことがほとんどでしょう。104の番号案内にかけて電話番号を調べたり、分厚い電話帳を繰って住所を探し当てたり、といったことは期待できません。いまや、“ウェブサイトをもっている”他のクリニックを探すというのが、ほとんどの人がとる選択です。
ウェブサイトをもっていれば、そのサイト内のコンテンツは、禁止事項にあてはまらない範囲で、自由に設計することができます。オリジナル性というのが、ウェブサイトの最大の特徴です。
さまざまなことが可能ですが、ウェブサイトがあれば、たとえば「存在を認知してもらう」「イメージを向上させる」「お客さんに来てもらう」という3つのことを同時にアピールすることができます。具体的なコンテンツとしては、次のようなものが挙げられるでしょう。
- 基本情報:住所、電話番号、診療科目、診療時間など
- 地図・外観:スタッフが案内する手間を省ける。迷わずに来院してもらえば予定通りに診察が進みやすい
- 治療内容・実績の紹介:治療の方針や治療費、実際に行ってきた治療例など。ある程度事前に治療のイメージをもってもらえる。来院時の不安を減らし安心感を与える
- 医師・スタッフの紹介:名前や顔写真。来歴も加えれば説得力が増す。スタッフ募集の際にクリニックのイメージを伝えるのにも役立つ
- ネット予約ページ:インターネット上で診察の次回予約ができるしくみ。時間の管理がしやすくなり患者の待ち時間短縮にもつながる
- Q&A:患者から受けた質問への回答。よくある質問を事前に解消できる
- ブログ等:ブログやFacebook、Twitterで、更新の代わりとしたり、クリニックの日々の状況を伝えたりすることができる
最後に、こっそりと、お教えしたいことがあります。実は、ウェブサイトをもつことは、患者への情報提供になるだけでなく「マスコミへのアピールにもなる」ということです。筆者は、医療系の記事を書く機会が多かったため、数えたことがなく恐縮ですが、ざっと100人以上の医師にお会いしてきました。
その多くは、筆者自身が下調べをして取材のアポイントをとっています。この時に頼りになるのが、その医師が所属する医療機関のウェブサイトです。取材対象となる医師の「人となり」までわかるようなサイトだと大変ありがたく、反対に、ウェブサイトをもっていない医療機関の場合は情報不足のために取材を断念せざるを得ないこともあります。
マスコミに目をつけられて取材の対象となれば、タダで広告を出せるのと同じこと。その機会を逃さないためにも、ウェブサイトをもつことをお勧めします。マスコミに協力することは広告規制の対象とはなりませんので安心してください。ただし、有料の広告記事については対象となる可能性が高いですから、その点にはしっかり注意しましょう。
執筆者 Sawa
記者・編集者を経て、フリーに。医療系の専門出版社である日本医療企画の介護・医療経営雑誌(『介護ビジョン』『ばんぶう』)で執筆を担当するなど、医療・福祉分野を中心に、U-CAN(日本通信教育連盟)、学研、朝日新聞社、リクルート、ビッグイシュー日本などで執筆。2011年よりロンドンにてモンテッソーリ教育を学ぶ。AMI国際モンテッソーリ教師・保育士。